ランドスケープ原論
人々は遙か昔より、大地の上で自然と向き合いながら暮らしてきました。厳しい自然と折り合いをつけながらその恵みを引き出す、さまざまな工夫を凝らした営みが地域ごとにみられます。そのような人間と土地・自然との関わり方が眼に見える形で示されている全体的な姿を、ここでは「ランドスケープ (Landscape)」と呼びます(風景や景観と同義ですがそれぞれに意味の幅があり、より広い意味でランドスケープを使います)。それは物的な環境自体のことではなく、人とそれをとりまく世界との関係の表れを指します。さらにそれは単に関わりあいの結果としての姿というだけでなく、生産・交易・祭祀などの暮らしの拠りどころとなるための価値ある環境が求められながら、自然と人為の相互作用によって積み重ねられてきた文化の表れであるといえます。ランドスケープは土地の上に繰り広げられる人と自然の関わりの姿です。
そこには人間が意図をもって生み出したものも少なくありません。たとえば池を穿ち山を築き、あるいは遠くの山河を眺めに取り込むなどしてつくられる庭園はその代表です。また土地の形態的な操作だけでなく、信仰の対象として自然に意味を与え、あるいは土地に名前を付けて風景のイメージを与えることもランドスケープを生みだす働きかけの例です。これらの働きかけは、近代以降「造園」あるいは「ランドスケープデザイン」という領域として成立し、庭園・公園の計画管理にはじまり環境保全や観光・まちづくりに至るまで、都市や地域において人間活動と自然環境の良好な関係の構築に広く関わっています。
ランドスケープは移り変わっていくものですが、将来に向けて継承したいものもあるはずです。そうした個性豊かなランドスケープが地域らしさの維持や形成に深くかかわります。このよう対象を「ランドスケープ遺産」と呼ぶこととします。それは必ずしも古いものとは限らず、将来に受け継ぎたいという思いが遺産という価値を与えるものです。またそれは誰かが一方的に決めるのではなく、地域の人々がその価値を見出し、共有することではじめて意義をもつものです。