インベントリーとしての考え方
日本造園学会では、ランドスケープ遺産を全国規模で広く把握して「インベントリー(目録)」として情報の集約をする作業を進めています。それは地域の風景の「宝さがし」といってもよく、それに関わる人々が地域について考えるきっかけとなり、さらにはまち・むらづくりや環境保全などの地域マネジメントに活かされることが期待されます。たとえば同一の山でも地域ごとに違う意味をもっており、それぞれが個々のランドスケープ遺産です。こうしたものをお互いに比べることもインベントリーづくりは可能にし、地域内だけでなく地域間の交流に役立つものと思われます。またランドスケープ遺産はきわめて多様であり、既存の保全制度はそれぞれがその一部を拾い上げているに過ぎません。今後さらに評価が期待されるランドスケープ遺産としてたとえば以下のようなものが挙げられます。
[近代の庭園・公園]:近代以降に生まれた庭園や特に公園を遺産とみることはまだ稀ですが、現役でありながらそれぞれの時代の考え方を反映してつくられ、歳月に応じた味わいを重ねた公園には、残すべきと思われるものは多くあります。また何かを記念してつくられる公園も少なくないですが、その場合公園は当初から遺産としての価値を与えられて生まれているといえます。
[都市の森]:例えば明治神宮にみられるように、公園に留まらない大規模な森林を都市内に造成し、都市景観にも寄与しているような都市林は近代の遺産です。
[里の風景]:農業をはじめ生業が生んだランドスケープには里山という全体の価値に加えて農用林、屋敷林、用水・水路網などの要素にも地域に応じた多様な特徴があります。
[産業]:一次産業を超えて様々な産業の生んだ景観が着目され、自然物を巧みに役立てる例や、無機的で人間を圧倒する姿に価値を置く見方も生まれています。
[信仰]:神社をはじめ日本の信仰の形態は自然環境と深く関わり、それは参道、鎮守の森、社殿配置、神体山、遥拝所、祭礼などランドスケープとしてみても興味深いものです。
[眺望]:秀麗な山や高いタワーのような際立つランドマークへの眺望だけでなく、自分たちの町を見おろすことのできる高台や坂道からの眺めは地域にとって貴重なランドスケープ遺産です。
[生態系]:貴重な生態系を守るだけでなく再生を試みる例も増えていますが、生物多様性などの観点だけでなく、ランドスケープとしてどう評価し引き継いでいくかについても考える必要があります。