遊子水荷浦の石垣段畑と漁港の景観(愛媛県宇和島市)
四国の西端部、宇和海へと突き出た岬の斜面に、海際から山頂に至るまで壮大な段々畑が広がっている。海を見下ろす急峻な傾斜地に累々と築かれた平均高1m以上にも及ぶ石積みが印象的なこの畑地は、地域の人々に「段畑」と呼ばれ、近世から長い時間をかけてつくられてきた。現在も営農が続けられており、根菜類が収穫されている。同様の段畑は、かつて宇和海沿岸に広く存在していたが、完全な形で残っているのはこの遊子(ゆす)地区の水荷浦(みずがうら)集落のものだけであり、国の重要文化的景観に選定されている。また、近接した漁港からは、かつて水揚げされたイワシを段々畑の肥料としても移動させていた。その後、昭和30年(1955)代を境にイワシ漁は真珠やハマチの養殖へと転換していったが、各々の漁業と段畑の営農は連動し、地域の半農半漁の営みによって一体的に景観がつくられ、維持・継承されてきた。地域の風土に根差した生業文化が育んだ、地域固有の景観である。
地域:近畿・中国・四国