関連制度
ランドスケープを遺産として評価して守っていこうとする取り組みは、必ずしも新しいものではなく、これまでにもいろいろな仕組みが考えられ、制度化されているものもあります。その主なものを紹介します。
名勝 -名景を守り味わう-
名勝は、古来の景勝地や京都などを中心に多く存する名高い庭園などに代表され、特にその芸術上・鑑賞上の価値が高く評価されたものです。特に重要なものは特別名勝とされます。名勝は国の指定のほか、自治体によるものもあり、指定によって現状変更等に対する規制や維持管理に対する補助が行われその価値の維持が図られます。名勝と並んで「史跡」「天然記念物」という種類もあり、文化財としてランドスケープ遺産を守る歴史ある仕組みです。(史蹟名勝天然紀念物保存法 のち文化財保護法 1919~)
都市の風致 -都市の味わいある自然/歴史的環境を維持する-
風致地区は、都市の中で緑や水の豊かな土地にゾーンを指定して建築等の一定の規制を行うことで、その土地の「風致」を維持しようとするものです。「風致」はなかなか難しい概念ですが、自然と歴史に特徴を持ちながら形成されている趣ある風景といった意味を持ち、風致地区制度は都市計画制度の中に位置付けられた最も歴史あるランドスケープ遺産の保全の仕組みといえます。(都市計画法 1919~)
自然公園 -優れた自然の風景地を守り楽しむ-
国立公園に代表される自然公園は、優れた自然の風景地の保護と利用を図るために、地域の一定範囲を指定して開発や利用に対する規制等を行うものです。日本全国のさまざまな自然風景の価値が評価されておりこれもランドスケープ遺産を守る一つの制度といえます。国立公園は戦前期より指定がはじまり、その評価の価値観が時代とともに変化している点は興味深いものです。現在国立公園は31か所に及びます。(国立公園法 のち自然公園法 1931~)
保存樹・保存樹林 -老木・名木を遺す-
保存樹・保存樹林は、都市における美観風致の維持を図り、また地域で親しまれてきた老木や名木や樹林などを保存・維持するために法及び自治体の条例により指定されるものです。たとえ一本の樹木でも、その存在は地域のランドスケープを形成する重要な要素となり得ます。巨樹はこのほか天然記念物などに指定される例も少なくありません。(樹木保存法1962~)
歴史的風土 -古都の歴史的風土を守る-
奈良・京都・鎌倉などの古都は周囲を山に囲まれた緑豊かで落ち着いた環境の中に置かれたことがその風土の形成に大きくかかわります。これらの周囲の自然的な環境を、歴史的風土特別保存地区などの設定により保全する制度が古都保存法です。10市町村がこの仕組みの対象となっていますが、近年、古都に限らず都市の歴史的な風致の維持を図る制度(歴史まちづくり法2008年)も新設され、文化財の保護とまちづくりの連携が進められています。(古都保存法 1966~)
伝統的建造物群 -歴史ある建物と環境を一体で守る-
歴史的なまちなみなど、伝統的な建造物をまとまりとして扱い、さらに周囲の環境との一体的な価値をも評価してその保全を図ろうとするのが、伝統的建造物群という文化財保護の制度です。その保存地区には城下町、宿場町、門前町をはじめ様々な種類があり、建築が中心となりますが、それを群ととらえかつ建築以外の要素や周囲の環境との関係に配慮するのはランドスケープ遺産の考え方といえます。(文化財保護法 1975~)
文化的景観 -人の営みが生んだ風景を守る-
農林水産業などの自然資源を対象とした生業・産業が生みだした、地域においての生活との関わりの深い景観の価値を評価し保全を目指す仕組みとして、近年新たに設けられたのが、文化的景観という文化財保護の制度です。棚田などがその代表格ですが、生業の範囲には鉱工業なども含まれており必ずしも農山村に限らない、広く生活と結びついたランドスケープ遺産を捉える視点が特徴です。(文化財保護法 2004~)
歴史的風致 -歴史と伝統が反映された都市環境の維持向上を図る-
歴史的建造物などから構成される歴史的まちなみに加え、さらに祭礼や工芸など歴史と伝統を反映した人々の営みを伴って醸し出されている地域固有の風情を「歴史的風致」と位置付け、その維持や向上を図ることを可能にするまちづくりの事業的制度です。都市環境の価値評価に際して祭礼など都市の伝統を担っている人間の活動も含めて行おうとする、新しいランドスケープ遺産の捉え方に特徴があります。(歴史まちづくり法 2008~)。