磨崖和霊石地蔵と港の景観(広島県三原市)

磨崖和霊石地蔵と港の景観瀬戸内海西部、芸予諸島を構成する島のひとつ、佐木島南部の向田野浦に広がる信仰と生活の景観である。穏やかな入江に面した浦の波打ち際に、高さ約2.7m、幅約約4.7m、厚さ約4mの巨大な花崗岩があり、その西面に秀麗な地蔵菩薩坐像が彫られている。満潮になると肩まで海に沈み、干潮になると全身が現れる。鎌倉時代後期、三原地方西部に勢力を張った在地領主を願主として、瀬戸内に数多くの優れた石造物を残した仏師・念心が生み出したこの地蔵尊は、地域住民の信仰を集め、代々篤く祀られてきた。近世に入り、和霊神社の信仰の影響を受けて「和霊石地蔵(われいしじぞう)」と呼びようになったという。瀬戸内海の岬の地蔵のなかでは最も古いとされるこの地蔵の隣には、島嶼航路の港が位置している。古より地域に根差した貴重な信仰の場と、島民の日常生活の足である港とが隣接し、一体となって、独自の波打ち際の景観が形作られている。